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「リドルが急に本気を出した」アンディ・シュレックCEO就任の裏で起きていること

Daifuku(ダイフク)

アンディ・シュレック

ツール・ド・フランスの十数年来のファンなら、この名前に胸を躍らせない人はいないでしょう。

かつてアルベルト・コンタドールとの名勝負を繰り広げ、2010年のツールで総合王者に輝いた彼が、リドル・トレックの新CEO(最高経営責任者)に就任するというが先日、発表されました。

チームの原点とも言える「レオパード・トレック」の創設メンバーだった彼が、15年の時を経て経営トップとして戻ってくる。これだけでも十数年来のファンにとっては十分に胸が躍るニュースですよね。

でも、このニュースを見たとき、私は少し疑問に思いました。

「元トップ選手が、いきなりチームの社長になるなんてことあるの?」

気になって色々と調べてみたのですが、これが単なる「昔のスターのセカンドキャリア」という美談では片付けられない、面白いことになっているようです。

リドルはどんな会社? なぜリドル・トレックを買収したのか

今回のニュースをパッと見たとき、多くのファンは「スポンサー企業のリドルが、アンディを社長に選んだんだな」と思ったのではないでしょうか。

でも、実はリドルという会社、私たちが思っている以上に、このチームの経営にどっぷり浸かっていました。ここ3年の動きを並べてみるとこうなります。

  • 2023年:新しくスポンサーになってチーム名が「リドル・トレック」になる
  • 2025年:チームの株を買い取って、実質的な経営権を握る
  • 2026年:アンディ・シュレックを新社長に据えて、自分たちの組織にする

そもそも、このリドルはどんな会社かというと、ドイツに本拠地を置き、ヨーロッパ全土に1万2000店舗以上を展開するスーパーです。

その売上規模は日本円で約20兆円(2023年度売上高約1,255ユーロ)。親会社のシュワルツ・グループにいたっては、ITやリサイクル事業まで手がける、世界トップクラスの巨大流通企業です。

ちょっと日本の感覚に置き換えて想像してみてください。

大手の「イオン(売上高約10兆円)」がプロ野球チームをスポンサーしているだけなら、よくある話ですよね。

でも、リドルがやったのは、単にスポンサーになっただけではありません。

2025年、リドルはチームの株式取得を進め、実質的なオーナー(持ち主)側に回りました。つまり、ジャージにロゴを載せる「広告主」から、チームを自ら動かす「経営者」になったのです。

もしイオンが「球団そのものを買収して本気で経営に乗り出しました。そして引退した元大物スターを球団社長に指名します」と発表したらどうでしょう。

「えっ、あのイオンが本気で球団を自社の長期戦略に組み込んできたぞ……!」と、ニュースの重みがガラリと変わるのではないでしょうか。いま、リドル・トレックの裏側で起きているのは、そういう状態なんです。

日本のファンの感覚だと「元選手が社長になった」くらいに見えますが、欧州目線だと「あの超巨大企業リドルが、いよいよチーム運営の舵を本気で握り始めた」という、大きな企業戦略のニュースだったわけです。

正直、ジャージにロゴが載るだけで十分じゃないの?

ここで、私の中でひとつの疑問が浮かびました。

「ジャージに大きく『LidL』って書いてあれば、それで十分じゃないの?」

チームが1位だろうが10位だろうが、テレビに映るロゴの大きさは同じです。普通の広告宣伝だけなら、わざわざチームを丸ごと買い取って、経営の面倒まで見る必要なんてないはずですよね。

それなのに、なぜリドルはそこまでしてチームの「経営者」になりたがったのでしょうか。

公式に答えが発表されているわけではないですが、調べていくうちに、彼らの本気の理由がいくつか見えてきました。

まずひとつは、「安売り」のイメージを変えたいのであろうという点です。リドルはもともと、超効率化した激安ディスカウントスーパーとしての印象が強いお店でした。そこから「健康や環境に配慮したアクティブなブランド」に生まれ変わるために、クリーンな自転車ロードレースのイメージがどうしても欲しかったのかもしれない、と言われています。

もうひとつは、ロードレースが「ヨーロッパ全域で見られる」からです。リドルはヨーロッパ中でスーパーを展開しています。サッカーだと国ごとにファンが分かれてしまいますが、ロードレースはフランスもベルギーもイタリアも、全部またいで開催されます。ヨーロッパ全土の生活者にアピールするのに、これほど都合の良いスポーツはないわけです。

そして「なるほど」と思ったのが、チームを数年で終わる広告ではなく、「自分たちの長期戦略の財産」にしたかったんじゃないか、という点です。スポンサー契約ならやめれば終わりですが、自分たちのチームにしてしまえば、じっくり時間をかけて強い組織に育てていくことができます。目先の宣伝だけでなく、もっと長い目で見ているのかもしれません。

エースを引き抜くんじゃなくて、彼らを勝たせた人を連れてくる

リドルの本気度は、アンディの社長就任だけじゃありません。

私が調べていて一番「これ、おもしろいな!」と思ったのが、ライバルチームからの「裏方の引き抜き」です。

普通、お金があるチームは「強い選手」をたくさん買おうとしますよね。例えば、ヴィンゲゴーやログリッチのような大物エースを引き抜くような派手な補強です。でも、リドルが本当に欲しがったのは選手ではなく、「彼らを勝たせた人たち」や「最強の仕組み」そのものでした。

世界トップの2大強豪チームから、信じられないような裏方のボスの引き抜きを敢行しているんです。

ヴィスマから「現場の最高指揮官」を連れてくる

あのヴィスマ・リースアバイクをツール連覇に導き、ヴィンゲゴーの戦術を作ってきた現場トップのグリシャ・ニールマンをスカウトしました。データを使って勝つための「頭脳」を、そのままチームに移植しようとしています。

レッドブルから「科学のプロ」を連れてくる

ログリッチやエヴェネプールといった名だたる選手たちを科学的に支え、今シーズン、あのレッドブルが買収して話題になったボーラ・ハンスグローエのパフォーマンス責任者だったダン・ローランを引き抜きました。選手を一番速く走らせるための「科学的なノウハウ」を丸ごと取り込む狙いが見えます。

今の動きを一覧にしてみると、本当に徹底しています。

これ、めちゃくちゃおもしろい役割分担だと思いませんか?

誰もが知っている元スターのアンディを「チームの顔(社長)」として座らせてファンの心を掴みつつ、現場の実務にはヴィスマやレッドブルから引っ張ってきた超実力派たちを配する。

ただ有名選手を買い集めるのとはワケが違う、「勝てる仕組み」を本気で作ろうとしているリドルの計画的な凄みを感じてしまいます。

結局、リドルは何を目指しているのか

正直、ここまでやる必要があるのかはまだ分かりません。

しかし、ただお金を出してロゴを載せてもらうスポンサーになっただけでは満足せず、チームを買い、アンディを社長にして、ヴィスマやレッドブルの人材まで集め始めています。

ロードレース界で「お金持ちのチーム」といえば、国家がバックにいるUAEや、エナジードリンク大手のレッドブルが有名ですが、リドルはヨーロッパの人たちの生活に密着した、身近なスーパーマーケットです。

そんな十数兆円規模の流通巨人が、なぜここまでロードレースを「長期戦略」として本気で抱え始め、大改革を進めているのか。

リドルが何を目指しているのか。

数年後に振り返ったとき、この人事がひとつの転換点だったと言われるのかもしれない。そんな風に思えてきます。

新社長になったアンディの手腕はもちろん、ガラリと変わりそうなチームの走りを見るのが、今からちょっと楽しみです。

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